著作:『蝶の図鑑(www.j-nature.jp)』

チョウとガの違いについて

昆虫のなかでも蝶と蛾の仲間を鱗翅目(りんしもく)といい、日本だけでおよそ5000種類が知られています。そのうち蝶は約250種類、残りはすべて蛾ですから、鱗翅目の大部分は蛾ということになります。
 ここで少し分類学の話をしなければなりませんが、現代の生物分類学では地球上のすべての生物を2つの界(かい)に分けます。ひとつは動物界、もうひとつは植物界です。それぞれの界には多くの門(もん)が含まれ、それぞれの門のなかにさらに多くの綱(こう)があります。
 昆虫は動物界の節足動物門、昆虫綱になります。昆虫綱のなかには多くの目(もく)があります。たとえばカブトムシやクワガタムシは鞘翅目、ハエやカは双翅目、蝶と蛾は鱗翅目と呼ばれています。そして目のなかにはたくさんの上科があり、それぞれの上科がさらに多くの科を含んでいます。
 日本産に限って言えば、鱗翅目に含まれる上科には次のようなものがあります。
 アゲハチョウ上科、セセリチョウ上科、コバネガ上科、スイコバネガ上科、コウモリガ上科、モグリチビガ上科、マガリガ上科、ボクトウガ上科、ハマキガ上科、ヒロズコガ上科、スガ上科、スカシバガ上科、ニセハマキガ上科、キバガ上科、シンクイガ上科、マダラガ上科、メイガ上科、トリバガ上科、シャクガ上科、イカリモンガ上科、カイコガ上科、スズメガ上科、シャチホコガ上科、ヤガ上科以上、24の上科があります(上科の分け方については学者により若干の違いがあります)。
 そしてアゲハチョウ上科とセセリチョウ上科の2つの上科に含まれる昆虫を蝶と呼んでいるのです。
 アゲハチョウ上科にはアゲハチョウ科、シロチョウ科、シジミチョウ科、ウラギンシジミ科、マダラチョウ科、タテハチョウ科、テングチョウ科、ジャノメチョウ科などの科が、セセリチョウ上科にはセセリチョウ科が含まれます。
 さまざまな基準を使って、このように24の上科に分けるわけで、鱗翅目全体のなかからアゲハチョウ上科とセセリチョウ上科だけを区別するような基準はありません。

 一般的には
  1. 蝶は美しいが、蛾は汚い  
  2. 蝶は昼間に活動するが、蛾は夜に活動する  
  3. 蝶は羽を立てて止まるが、蛾は羽を広げて止まる  
  4. 蝶の幼虫はアオムシだが、蛾の幼虫は毛虫である

などなど、さまざまなことが言われていますが、どれにも例外がたくさんあります。

  1. 美しいかどうかは個人の好みもありますから一概には言えませんが、美しい蛾もたくさんいますし、地味な蝶もたくさんいます。
  2. 昼間に飛ぶ蛾はたくさんいますし、クロコノマチョウウスイロコノマチョウなどの蝶は夕方かなり暗くなってから活動します。
  3. 羽を立てて止まる蛾はシャクガの一部やイカリモンガがありますし、蝶でもイシガケチョウスミナガシダイミョウセセリなどは羽を立てません。
  4. ヒョウモンチョウの仲間は幼虫が毛虫ですし、アオムシの蛾は数え上げればきりがありません。

 結局、蝶と蛾は同じ仲間であり、区別しようとすること自体ムリなのです。それでもなんとか区別したい、というのであれば、日本産に限って言えば、触角を観察するのが一番間違いが少ないでしょう。
 蝶の触角は基本的には棍棒状で、アゲハチョウ上科ではマッチ棒のように先端が丸くなっています。セセリチョウ上科ではいったんマッチ棒のように太くなったあと、先端に向かってスッと尖っています。これが蝶の特徴で、蛾では糸のように細かったり、鳥の羽毛のように毛がたくさん生えていたり、あるいはクシのようだったりします。 ただしマダラガ科の一部やスカシバガ科などに例外があります。
 ついでながら、英語では蝶をbutterfly、蛾をmothといいますが、butterflyのなかには日本で蛾として扱われているものが一部含まれているようです。一方、ドイツ語では蝶をderTagfalter、蛾をder Nachtfalterと呼ぶほか、蝶と蛾をまとめてdieSchmetterlingeと呼ぶ場合があります。
 Tagfalterとは「昼間に飛ぶもの」、Nachtfalterとは「夜に飛ぶもの」という意味で、これがそれぞれ日本語の蝶と蛾に完全に一致するのかどうか、日本人の私にはわかりませんが、どうもちょっと違うようです。
 ドイツ人は日本人ほど蝶と蛾の区別を気にしていないようです。
 ややこしい話になってしまいましたが、お分かりでしょうか? 
 とりあえず「蝶と蛾はどう違うのか」という質問に対する正解は「蝶と蛾を完全に分けることはできない」ということなのです。
佐々木 昇

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